普段何気なく乗っている車。そのエンジンに使われている燃料はほとんどが「ガソリン」です。
では、なぜエンジンにはガソリンが使われているのでしょうか?
軽油や灯油、あるいは電気など、他にもエネルギー源はあります。
それでもガソリンが主流であり続けるのには、確かな理由があります。
■ 良いエンジンの3つの条件
まず、エンジンの基本を押さえましょう。
自動車整備の現場では「良いエンジンの3要素」として、次のように教わります。
- 良い混合気(適切な空燃比)
- 良い圧縮(効率的な燃焼を生むための圧縮)
- 良い火花(確実な点火)
この3つが揃って初めて、エンジンは理想的な「爆発=燃焼」を起こし、ピストンを押し下げて動力を生み出します。
つまり、エンジンとはいかに効率よく燃焼を制御してエネルギーを取り出すかがすべてなのです。
■ エンジンの仕組みとガソリンの関係
エンジン内部では、「空気とガソリン」が混ざった混合気がピストンによって圧縮されます。
このとき、圧縮比(燃焼室の最大体積と最小体積の比率)が高いほど、燃焼効率は良くなります。
圧縮比を高めると、
- 圧力上昇
- 温度上昇
- 熱効率向上
が起こり、限られた燃料で大きなパワーを生み出すことができます。
しかし、圧縮しすぎると「自己着火(ノッキング)」が起こり、エンジンを傷める原因になります。
ここで重要になるのが、ガソリンの性質です。
■ ガソリンが選ばれた理由①:揮発性と着火性のバランス
ガソリンは炭化水素(炭素と水素の化合物)の混合物で、揮発性が非常に高いのが特徴です。
つまり、常温でも簡単に気化し、空気と混ざりやすいのです。
また、引火点(火を近づけたときに燃える最低温度)は**−40℃以下と非常に低く、常温でも火がつくほど。
この特性により、シリンダー内で均一に気化して燃焼しやすい混合気**を作ることができます。
ガソリンは、
- 灯油や軽油よりも気化しやすい
- 均一な燃焼がしやすい
という点で、内燃機関に最適な燃料だったのです。
■ ガソリンが選ばれた理由②:熱効率と比熱比の関係
エンジンの熱効率(=燃料から得られるエネルギーの割合)は、圧縮比と比熱比で決まります。
オットーサイクルの理論熱効率は、圧縮比と比熱比によって決まる(大阪工業大学HPより)
圧縮比を上げると効率は上がりますが、同時に燃料が自己着火しないようにする必要があります。
ガソリンは**自己着火温度が約260℃**と高く、ある程度圧縮してもノッキングが起きにくいという性質を持ちます。
つまり、高効率化と安定燃焼を両立できる燃料として、ガソリンが選ばれてきたのです。
■ ガソリンが選ばれた理由③:制御しやすく小型化できた
19世紀後半に登場したガソリンエンジンは、蒸気機関のような大がかりな装置とは異なり、
**小型で高出力を得られる構造(内燃機関)**として開発されました。
その始まりは、1876年にニコラウス・オットーが発明した「四サイクルガソリンエンジン」。
当時から、ガソリンの高い揮発性と燃焼安定性が小型エンジンに最適だったのです。
蒸気機関のように外部で燃料を燃やす「外燃機関」ではなく、
シリンダー内部で直接燃焼させる「内燃機関」が主流になったのも、
ガソリンがあったからこそ実現したと言えるでしょう。
■ エンジン制御技術の進化とガソリンの相性
現代のガソリンエンジンは、複数のセンサーとコンピューター(ECU)によって常に最適な燃焼を維持しています。
たとえば、
- 吸入空気量センサー
- 排気ガスセンサー
- ノックセンサー
- バルブタイミング制御(VVT)
などを組み合わせ、混合気の濃さや点火タイミングをリアルタイムで調整しています。
これらの制御技術が機能するのも、ガソリンの燃焼特性が安定しているからです。
つまり、ガソリンは単に「燃える」だけでなく、制御しやすい燃料でもあるのです。
■ 歴史から見るガソリンエンジンの位置づけ
人類の動力史を振り返ると、以下のような流れがあります。
| 年代 | 出来事 |
|---|---|
| 1712年 | ニューコメンが最初の蒸気機関を製作 |
| 1769年 | ワットが改良型蒸気機関を発明 |
| 1876年 | オットーが4サイクルガソリンエンジンを発明 |
| 1893年 | ディーゼルがディーゼルエンジンを開発 |
| 1957年 | ヴァンケルがロータリーエンジンを発明 |
外燃機関(蒸気機関)は大型で小回りがきかず、車両には不向きでした。
その課題を克服したのが、燃焼ガスを直接使う内燃機関=ガソリンエンジンです。
ガソリンの「気化しやすく燃えやすい」特性が、この小型高効率エンジンを可能にしました。
■ まとめ:ガソリンはエンジンに最も“ちょうどいい”燃料
ここまで見てきたように、ガソリンがエンジンに使われている理由は以下のとおりです。
- 揮発性が高く、燃焼が安定している
- 高い圧縮比でもノッキングしにくい
- 制御しやすく、小型エンジンに向いている
- 燃焼効率が高く、出力と経済性のバランスが良い
ガソリンは偶然ではなく、物理法則と化学的特性の両面から選ばれた燃料なのです。
現代ではEVや水素エンジンなどの新技術が登場していますが、ガソリンエンジンの完成度はいまだ高く、世界中で使われ続けています。
自然法則をうまく利用したこの仕組みは、人類が生み出した最も洗練された動力の一つといえるでしょう。
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