冷却の話
今の車はほとんどが水冷です。エンジンの冷却に水を使っています。
エンジンの内部は見えないのでイメージがつきにくいかもしれませんが、シリンダーの周りには水が通る空間(ウォータージャケット)があり、そこを冷却水が通ることで、熱を逃しています
なぜ水冷になったか
昔の車は空冷でした。しかし、空冷には欠点があります。燃料を薄くできない、ということです。
何故か、というと…
燃料を薄くしていくと、燃焼温度が上がってしまうからです
空冷式エンジンでは、その熱を逃すのが大変になってしまいます(エンジンがうまく冷えない)
燃料を薄くするのは何故か、というと、薄くすれば比熱比を上げることができるからです(混合気は空気の方が比熱が小さく、燃料の方が大きい。燃料を少なくすれば、混合気の比熱は小さくなり、比熱比は上がる。そうすることで、燃焼の効率を上げるため)
また、燃料が薄ければ、燃料の燃え残りである炭化水素HCの量を減らすこともでき、排ガス対策にもなります
むしろ、この環境対策としてHCを減らすことのために、燃料を薄くしようという流れが起きた、ともいえます
空冷の車
国産車では、現在、空冷エンジンの車は販売されていません
外車では、現在はないようですが、直近では1997年までポルシェが空冷エンジンを搭載したモデルを製造していました
車における冷却システム
車において、エンジンを積んでいる以上、その熱対策が重要です
もし熱対策をしないと、エンジンがオーバーヒートして、最悪エンジンが壊れてしまいます
シリンダー内の燃焼温度は2000~3000度にも達しますので、冷却しなければそのまま熱くなりすぎてしまうわけです
水冷エンジンの冷却システム
大まかに言えば、エンジンを通過した冷却水は、
サーモスタッドが開いている時(冷却水が熱い時)は
ラジエーターを通って、その間に冷却され、またエンジンに戻る
サーモスタッドが閉じている時(冷却水が冷えている時)は、ラジエーターを通らずバイパス通路を通ってエンジンに戻る
(水の流れはウォーターポンプによって作り出される。エンジンの動力をベルトを介してウォーターポンプに伝える)
この繰り返しです
走行するとラジエーターに風が当たり、それによって冷却水が冷やされる、という仕組みです。
停車時などラジエーターの冷却が追いつかない時は、電動ファンが回って風を起こし、それで冷却水は冷やされます
水冷の”水”ってどんなもの
水冷なので水、と思いきや…
LLC(ロングライフクーラント)
直訳ならば「長寿命冷却材」と水を混ぜたものを使っています
主な成分はエチレングリコールという物質
エチレングリコールって何?
となりそうですが、アルコールの一種だ、と考えてください
なんでこれを使うかというと、融点が-12.6度(つまり凍る温度)で、引火点、発火点ともに車の冷却水として使うのには温度の範囲がちょうどいいから、という点があげられるかと思います
また、通常使用では引火しないから、という安全性も考慮されてのことだと思います
冷却水にLLCを入れる目的は、冷却水の氷点を下げ、沸点を上げるためです
なお、ロングライフという名がついていますが、いずれ酸化して金属を腐食させるようになりますし、性能も落ちます
なので、冷却水も消耗品だ、と考えてください
補充
LLCはできれば精製水で薄めて使ってください
売られているLLCは薄めなくてもいいタイプが売られていますが、
薄めるタイプのLLCの場合、できれば精製水で薄めてください
水道水だと、カルシウム分が残っていたりするので、ラジエーターによくありません
なお、冷却水の濃度によって、性能に差が出ますので注意してください
KTC 工具の基礎知識 「LLCのはなし」より
https://ktc.co.jp/support/material/004.html
LLC濃度と凍結温度の目安
LCC濃度 凍結温度
30% -15℃
35% -20℃
40% -24℃
45% -28℃
50% -36℃
55% -41℃
60% -54℃
濃度が低すぎると凍結温度が上がってしまいますし、沸点もあまり上がりません
濃度60パーセントを目安にLLCを調整してください
60パーセント以上にすると、凍結温度が上がっていきます
原液のまま入れないようにしてください
冷却水の交換
交換は、修理工場で行った方が無難です
というのも、
車をリフトアップした方が作業がぐんとやりやすい
冷却水を抜くことはできても、補充した後で空気が入ったままになっていて、ヒーターの温風が出なくなってしまうことがある
という理由からです
手順を心得た整備士に任せた方がいいでしょう
注意
冷却水は毒物です。絶対に飲んではいけません
飲むと、腎不全を起こし、最悪、死に至ります
誤って飲んでしまった場合は、応急処置をした後、救急車を呼ぶかすぐに医療機関を受診してください
なお、蒸気を吸引しないようにしてください
応急処置の方法
- 飲み込んだ場合
水でよく口をすすぎ、多量の水を飲ませて吐き出させる(意識がない場合は水を飲ませると窒息する恐れがあるので飲ませないでください)
- 蒸気を吸引した場合
風通しのいいところに移動させ、早めに医療機関を受診する
なお、冷却水を廃棄する時は、水性生物にも毒ですので、川に流したりしないでください