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車の冷却システムを徹底解説|現代車が「水冷式」を採用する本当の理由とは?

2025年11月16日

あなたの車のエンジンは、いまこの瞬間も「2000度の地獄」を何度もくぐり抜けている――。
それでも壊れず走り続けられるのは、ある“知られざる冷却の仕組み”が働いているからです。

しかしその仕組みを少しでも誤ると、
エンジンは静かに、そして確実に寿命を縮めていきます。

かつて車は空冷だったのに、なぜ今は水冷が当たり前なのか?
なぜ冷却水を間違えるとエンジンが破壊されるのか?
そして、なぜ整備士は「LLC交換だけは絶対に軽く見るな」と警告するのか?

実は、車の“冷却システム”には、一般のドライバーがほとんど知らない、
驚くほど精密で、奥深いメカニズムが隠されています。

あなたの車を長く、強く、安全に走らせるために――
知っている人だけが得する「冷却の真実」を、今から明かします。


■ なぜ現代の車は「水冷式」なのか?

かつては水を使わない「空冷式エンジン」の車も多く存在しました。
しかし現在、国産車では空冷エンジンの車は一台も販売されていません

理由はひとつ。
空冷では現代の環境基準や燃費性能に対応できないからです。

● 空冷式の最大の欠点:燃料を薄くできない

環境対策や燃費向上のため、エンジンは「燃料を薄く」して燃焼させる方向に進化してきました。
しかし燃料を薄くすると、燃焼温度が高くなり、空冷ではその熱を十分に逃がせません。

  • 燃焼温度の上昇

  • エンジンが冷えにくい

  • 排ガス(HC)削減がしづらい

このような理由で、空冷式は現代の要求に合わなくなっていきました。

最後まで空冷にこだわった代表例が1997年までのポルシェ
しかしそのポルシェでさえ、最終的に水冷に移行しました。
これは、空冷では達成できない性能・排ガス規制への対応が必要だったためです。


■ 水冷エンジンの仕組み:エンジンの外側には水の通路がある

エンジン内部には「ウォータージャケット」と呼ばれる、水が通る空間があります。
ここに冷却水が流れることで、エンジンを効率的に冷やす仕組みです。

水冷エンジンの基本的な冷却サイクルは以下の通りです。

● 冷却水の流れ

  1. エンジンで温められた冷却水がラジエーターへ送られる
    (サーモスタッドが開いている時)

  2. ラジエーターで風を受けて冷却される

  3. 冷えた冷却水が再びエンジンへ戻る

走行中は走行風がラジエーターを冷やしますが、停止時は電動ファンが作動して風を送り、冷却性能を保ちます。

● サーモスタッドとは?

冷却水の温度に応じて「開閉」する弁のこと。

  • 冷えている → 閉じる(ラジエーターを通さない)

  • 暖まっている → 開く(ラジエーターで冷やす)

これによりエンジン温度を一定に保ちます。


■ 冷却水「LLC」とは?水道水ではダメな理由

冷却水には単なる水ではなく、**LLC(ロングライフクーラント)**が使用されます。

主成分はエチレングリコールというアルコールの一種。
これには以下の効果があります。

  • 冷却水の凍結温度を下げる

  • 冷却水の沸点を上げる

  • ラジエーター内部を腐食から守る

● LLC濃度と凍結温度の例

LLC濃度 凍結温度
30% -15℃
40% -24℃
50% -36℃
60%(最適) -54℃

濃度を上げすぎると逆に凍結温度が上がるため、60%前後がベスト

● 補充は必ず「精製水」で

水道水だとミネラル成分が残り、ラジエーター内部を痛めます。
必ず精製水か、すでに希釈済みのLLCを使用しましょう。


■ 冷却水交換は整備工場に任せるべき理由

冷却水は「消耗品」です。
放置すれば酸化して錆を発生させたり、冷却性能が落ちたりします。

そして、交換は自分でできなくもないですが…

  • 車をリフトアップした方が作業がしやすい

  • 冷却ラインに空気が残ると、ヒーターが効かなくなる

  • エア抜き作業が意外と難しい

以上の理由から、整備工場に任せる方が安全です。


■ 冷却水は毒物。絶対に飲まないこと

エチレングリコールは飲むと腎不全を起こし、最悪死に至る毒物です。

● 誤飲した場合の応急処置

  • 口をよくすすぐ

  • 水を多く飲ませて吐かせる(※意識がない場合は NG)

  • すぐに医療機関へ

また、蒸気の吸引も危険なので注意してください。
廃棄は川などに流さず、必ず適切に処分しましょう。


【まとめ】

現代の車が水冷式を採用するのは、性能・安全性・環境基準のすべてを満たすためです。
冷却システムはエンジンの寿命に直結する重要な要素。
LLCの管理や交換を怠らなければ、車は長く快適に走ります。


【専門的補足①】空冷式が廃れた本当の理由は「熱マネジメントの限界」

空冷式エンジンの欠点は「冷えにくい」だけではありません。
最大の理由は、エンジンの温度を“狙った温度に”コントロールできないことです。

● 空冷式は温度制御が粗い

空冷式はその名の通り「空気を当てて冷やす」仕組み。
しかし外気温や車速による冷却量の差が大きく、

  • 冬:冷えすぎ

  • 夏・渋滞:熱だまりで冷えない

といった問題が起こり、エンジン性能の安定化が難しいという課題がありました。

現代の車が求めるのは、

  • 一定の燃焼温度

  • 最適な燃焼効率

  • 低排ガス

  • より高い出力・高圧縮比

といった精密な温度管理。
空冷ではもはや限界があり、水冷に移行したのは必然だったわけです。


【専門的補足②】水冷式が「燃費・排ガス」に強い理由

水冷式ではウォータージャケットを通る冷却水の温度を正確に管理できます。
これは近年の車に必須の性能です。

● 水冷式の強み:温度を「一定に」保てる

例えば…

  • 燃焼温度が高すぎる → ノッキングが発生する

  • 燃焼温度が低すぎる → 未燃焼ガス(HC)が増える

これらを防ぐためには、温度コントロールこそ最重要ポイント
水冷式はその精度が圧倒的に高いのです。

特に近年のエンジンは、

  • 直噴

  • ダウンサイジングターボ

  • 高圧縮比

  • EGR(排気再循環)

  • アイドリングストップ

など、すべてが「温度管理ありき」の技術。
水冷が必須である理由がここにあります。


【専門的補足③】LLCの濃度と「沸点上昇」の関係

LLCを混ぜる目的は「凍らせない」だけではありません。
より重要なのは “沸騰させない” こと です。

冷却水が沸騰すると、

  • 冷却経路に気泡が発生する(ベーパーロック)

  • 熱がうまく逃げない

  • 局所的にオーバーヒートが起きる

という危険な状態になります。

● LLCを60%推奨する理由

水100%の場合、沸点は100℃ですが…

  • LLC 50% → 約108℃

  • LLC 60% → 約112℃

さらに、冷却システムは「加圧式」のため、実際には120℃以上まで沸騰しません。
これが現代の高効率エンジンを支える基盤になっています。


【専門的補足④】LLCの“寿命”が来るとどうなるのか

LLCは長期間使うと分解が進み、冷却ラインに悪影響を与えます。

● LLCが劣化すると…

  • 防錆成分が減少 → ラジエーター・ウォーターポンプに錆

  • pHが酸性寄りに → 金属腐食が進む

  • 冷却性能が低下 → 夏場にオーバーヒートの可能性

特にアルミパーツは酸性に弱いため、欧州車では冷却水管理がさらに重要です。

一般的には…

  • 国産車:2〜5年

  • 欧州車:2年ごと推奨

というのが交換目安です。


【専門的補足⑤】エア抜きを失敗すると何が起きる?

冷却水を交換した際、冷却ラインに「エア(空気)」が残ると以下のトラブルが起こります。

● エア噛みの症状

  • ヒーターが効かない

  • 水温計が急上昇する

  • 冷却水が循環しない

  • オーバーヒートする

特にエンジン上部に空気が溜まると「ウォーターポンプが空転」し、熱が逃げません。
これがエンジン破損に直結するため、整備工場での交換が推奨されます。


【専門的補足⑥】電動ファンの制御は昔とは別物になっている

昔の車は「水温が一定値を超えたらファンON」という単純制御でした。
しかし現在の車はECUによって、

  • エンジン負荷

  • 吸気温

  • 外気温

  • 車速

  • エアコン使用状況

など細かく判断しながら段階的にファンを制御しています。

これにより、
「冷えすぎも、熱すぎもない状態」を保つことができ、燃費と出力の両立が可能になりました。


【専門的補足⑦】なぜ冷却水は“毒”なのか

LLCの主成分であるエチレングリコールは、体内で代謝されるとシュウ酸に変化し、腎臓で結晶化します。

その結果、

  • 腎不全

  • 中枢神経障害

  • 最悪、致死

という危険性があります。
甘い味がするため、ペットや子どもが誤飲しやすい点にも要注意です。

欧米では誤飲対策として「プロピレングリコール」を使用するLLCも増えています。


【専門的補足⑧】近年増えている“電動ウォーターポンプ”とは?

最近の車では、エンジン回転数に依存しない電動ウォーターポンプの採用が増えています。

● 電動式のメリット

  • 冷却水の流量を細かく制御できる

  • 低負荷時は流量を減らして燃費改善

  • 停車後でも冷却を継続できる

  • アイドリングストップとの相性が良い

ハイブリッド車やEVで使われるのもこれが理由です。

LLC(ロングライフクーラント)について



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